7年間、海外の日本人学校で小学生を担当していたきどり(@kidori6803)です。
以前に作成した記事【経験者が語る】海外の日本人学校の教員採用試験の話が、アクセス数を伸ばしており、海外の日本人学校の情報を求めている方が一定数いることが分かったので、日本人学校の内側をさらに掘り下げてご紹介します。
この記事は、
海外の日本人学校で働いてみたい人
日本人学校に子供が通うことになった人
に少しでも分かりやすく実態が伝わるように、事例を交えながら、その真相をご紹介します。
今回は、日本人学校の子どもたちです。
実年齢のマイナス2歳
子どもたちと触れ合っていると、賢いけれど、甘え上手な子どもたちが多く、彼らの内面は「6年生だけど4年生みたい」、「3年生だけど1年生みたい」と言った具合に、実際の年齢のマイナス2歳、といった感覚がありました。
日本人学校に通う子どもたちの家庭は、親が一流企業に勤めていたり、起業や資産運用で成功している人が多く、95%のお母さんは専業主婦です。
そのため、全般的に家庭環境はとても恵まれいて、親はお金にも時間にも余裕があり、子どもたちは親の愛情をたっぷりと受けて育ってきているからこそ、子どもたちは純粋で素直で、幼く見えるのでしょう。(もちろん例外もあります)
実際に、小学6年男子で、まだお母さんとお風呂に入ったり、同じベッドで寝る、という子もいましたし、6年女子で僕の膝の上に乗ってこようとする子もいました。
(子どもの要求とはいえ、セクハラになってしまっては困るので、やんわりと断りましたが)
『教室で子どもたちが幼く見える、ということは、学級経営がうまく行っている証だ』と言う、ある教育家集団のボスもいましたが、まさにその通りです。
純粋で素直だからこそ、物事への取り組みへの迷いがなく一生懸命です。
運動会のダンスや、音楽会での合唱・合奏などは、中学や高校の部活のように一生懸命です。
教師の知らないところで、休み時間の遊びを取り仕切る「みんな遊び実行委員会」や、悩んでいる仲間を助けたい人が集まる「◯◯さんを支える会」を発足させて、大人を驚かせることも少なくありませんでした。
よく言えば、有名私立のお坊っちゃま、お嬢様の通う学校。
言葉を選ばなければ、教師の力が高くなくとも、子どもたちがすごいことを成し遂げる学校。
それが日本人学校のもつパワーなのです。
道徳を盛り上げる、非道徳な子
小学校4年生の担任をしていた時、異様に盛り上がった道徳の授業がありました。
その授業を盛り上げたのは、クラスのリーダー的存在で、友達思い、けれど主張が強く、少しわがまま、という男子児童です。
その日の読み物は「6セント半のおつり」。
若き日のリンカーンが、お店で働いていた時に、6セント半のお釣りを渡しそびれてしまい、お客さんの家までの10kmの道のりを、寒さに耐え、強風に耐えながら歩き、ようやくお釣りを返し、晴れ晴れとした気持ちになった。
リンカーンのまっすぐな気持ちと態度を通して、子どもたちに、「正直さ」「素直さ」「明るい気持ち」の良さを見つめさせる目的があります。
ほとんどの子どもたちは


などと、いかにも徳のありそうなことを言います。
まあ、道徳ですから、子どもたちも聖人モードに入っています。
では、その男子生徒はリンカーンのとった行動に対してなんと言ったかと言いますと…
お釣りを数えなかったお客さんにも問題があるし、そのお釣りが必要だったら、またいつか取りに来るはず。
僕だったら、次来るかも分からない遠くのお客さんに、そんな少しのお釣りをわざわざ返しに行かずに、その時間で他の人に商品を売る。

こう言ってのけました。
きっと日本の学校では、そもそもそんな非道徳的な意見を道徳の時間に言う子どもはいないでしょう。
もしそのような発言があっても、クラスメイトがサーーっと引いてしまう様子が、頭に浮かびます。
しかし、日本人学校のそのクラスでは、

と、小学4年生にして、人間の二面性について語り始めたのです。10歳ですよ?
きっと普段から大人たちの会話をたくさん聞いていて、社会の複雑さを知っていたのだと思います。
道徳は、誰かの意見を批判したり、正解を求めたりしてはいけない教科ですから、無理やり「いやいや君、それは違うよ」というのはNGです。
文科省の目指した道徳からは少し離れてしまいましたが、彼のおかげで「人間の本質」についてじっくりと考えることができた1時間となりました。
日本人学校には、このような考え方を持つ「日本人離れした子」が数多くいます。
そんな子どもたちとの触れ合いは、教師にとっても、子どもたちにとっても、刺激的です。
子どもたちを大多数の枠にはめずに、個性を持った子どもたち一人ひとりを受け入れ、活躍できる環境をつくる姿勢が、教師にも保護者にも求められています。
いじめは少ないけれど、心配な帰国後
日本人学校では、日本でも数々の転校を繰り返し、そして海外にやってきた子どもたちが多いです。
ですから、転校する悲しみや大変さもよく心得ているので、クラスにやってきた転入生を受け入れたり、自分とちょっと違うものを尊重することができたりと、教室が優しさでいっぱいになるのです。
しかし、日本人学校でぬくぬくと育ってしまうと心配になるのが、日本帰国後の新しい学校です。
日本に帰ると、「海外で生活をしていた」という経験は異質で、嫉妬の対象にもなり得ます。
僕の教え子でも、日本人学校ではリーダー的存在で力を発揮していたけれど、日本に帰った途端にいじめられて不登校になってしまった、という子もいました。
帰国子女の多い地区の公立学校や、私立などに行けば、大きなギャップはないのかもしれませんが、家庭にとって学校選びとはそう簡単な話ではありません。
そこで、教師は子どもたちを、明るく希望いっぱいにサヨナラしなければいけません。
たったの7年で百人以上の近くの転校生を送り出してきましたが、一人一人涙目で笑い合って、時に抱き合って、最後は背中をバンっと押して、新しい世界に送り出してきました。
日本人学校に通う男の子の話
まとめ
僕の持っていたクラスは、1年間で半分が転校し、半分が転入してきました。
子どもたちは、その度に涙を流しながら出会いと別れを繰り返し、強く、優しくなっていきました。
教師も保護者も、赴任前はとても不安ですが、日本人学校に入ってしまえば、そんな子どもたちの姿に、きっと勇気をもらうことでしょう。